2023年9月19日火曜日

「犬に噛まれた武勇伝」はやめよう

保護犬を救助、預かっているユーチューバーさんが、犬を紹介する動画の撮影中に、その犬に噛まれました。

「ワン友の会」のお友達とピクニックした時の写真だよ

噛まれた瞬間は映っていませんでしたが、痛々しく血が滲む指をカメラに向けて、「突発的に、急に興奮して」噛んだと説明していました。



みなさんは、犬に噛まれたことがありますか?

私はあります。子供の頃、親戚の飼い犬に、正面から手を伸ばして頭をなでようとした時。

あるの?

学校の帰り道で出会った野良犬の、お腹のあたりをなでた時。どちらも「自分が犬の嫌がることをした時」でした。とてもとても反省。



噛まれたユーチューバーさんは「救助されたばかりでまだ性格がよくわからない」けれど、「噛むことがある」というその犬を抱っこしてカメラに向かい、


陽気な声で話していました。犬を両手で宙に抱き上げ、グイッとカメラに近づけた時、犬が唸ったと言っています。



「甘やかされて育った感じがする」とか、「先天的に脳に障害がある」、「足を拭いたりすると怒ってくる」と説明しながら犬が唸っている間もずっと、持ち上げたり、不意に触ってビクッとさせたり、指で鼻先をつついたり…



そして、犬を抱えたままカメラの位置を変えようとしていた時、「突発的に、急に興奮して噛んだ」と。



その後も何度も噛まれた指をカメラにかざし、「預かりをやっていたらこういうこともあるんですよ、といういい動画になったんじゃないでしょうか」と動画を収めていますが、



非常に危険な教材だと思いました。

この犬は本当に、「突発的に、急に興奮して噛む犬」なのでしょうか?

どう思います?

慣れない人に持ち上げられ、ウウ〜と唸って「やめて!」と伝えたのにやめてくれない。ガヤガヤと喋りながらあちこち触られて、唸ってもやめてくれないから、噛んでやめてもらうしかなくなった、



「普通の犬」のように、私には思えます。



少なくとも「脳に問題があり、甘やかされたから噛む犬」には見えません。



ハズバンダリートレーニングとは逆の「嫌がっても押し通す」シーザー・ミランがよくやっては噛まれているやつだ、と思ったら、本当にシーザーの本を読んで勉強しているそう。



シーザーが番組で犬に噛まれると「そういうことをするからでしょうが」と思います。そういうシーンがあった方がドラマになるので、番組的には願ったり叶ったりでしょう。



以前にも書きましたがシアトルアニマルシェルターでは、ポジティブメソッドで保護犬を世話しています。



頭を触られるのが嫌な犬、おもちゃやフードガードのある犬、それぞれの犬の嫌がることをモニターし、唸らなくても、噛まなくてもいい環境を作って信頼を築きます。



シェルターで私が一番恐れていることはやはり、犬に噛まれることです。



痛いのも嫌だけれど、噛まれて怪我をしたら、その犬は危険とみなされ、殺処分の対象になる可能性があります。自分のまちがいで犬を不幸にするのが一番怖い…



もしも誰かがこのユーチューバーさんの動画から犬の扱いを学び、同じようにした結果噛まれてしまったら、誰が犬を守ってくれるのでしょう?



自分で噛まれる状況を作ってしまったことに気づかずに、陽気なサムネイルを作り「噛まれた武勇伝」で再生回数を稼ぐことは、保護犬のためになるのでしょうか。



私がフォローしているドッグトレーナーの先生によるブログ Dance With Dogs で最近、噛む犬のことについて書かれていましたが、この先生ならこの犬を「突発的に、急に興奮して噛む犬」とは呼ばないはずです。

ぼくこの先生からダンスを教わりたかったなー

人間だって嫌なことはされたくないのに、犬は人間に何をされても逆らってはいけないというのは、間違っています。



犬によって「噛む」に至る我慢の度合いは違い、唸るだけではなく、見落としがちなボディランゲージから読めるサインもあります。



このユーチューバーさんが犬を愛するやさしい方だということは間違いありません。どうかボディランゲージを学んで犬の気持ちに寄り添い、たくさんの犬を助けてあげてほしい。

せっかく助けた犬を、不幸な事故に遭わせないように。


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